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プロローグ
太古、地球は七人の偉大な呪術師(シャーマン)によって支えられていた。
彼らは天を轟かせ地を動かし、風を、雨を、火を操り、世界に恵みと死の循環を――破壊と再生のサイクルをもたらしていた。開闢(かいびゃく)の世、神より与えられし偉大なる御教えに従い、混沌に満ちた世界に均衡と調和を産み出していた。
そこでは、人々は世界や自然の一部として、質素に、心安らかな日常を送っていた。
世界を構成する要素は全て一であると同時に全。全ては混沌に連なるモノとして多元的な意味を持ち、総体を為して一つの調和を形作る。どれ一つ欠けても正しい和音を奏(かな)でることができなくなる、危ういバランスの上に成り立つ世界。だが、多元的な曖昧さを秘めたまま全てがあるがままに存在し、全ての営みをあるがままに受け容れることで、それは永遠に続く楽園になる。
そう、人も、始祖の男女(アダムとイヴ)が愚かにも己の本分を忘れ、禁断の木の実を口にしてしまうまで、自然を構成する要素の一つとして、七人の偉大なる呪術師の導きの下、調和に満ちた世界を産み出し続けていた。
既に、人の世では永遠の調和も、七人の呪術師たちが神から受け継ぎ伝えてきた偉大なる御教えも、何もかもが喪われて久しい。それ故、地上には反調和がはびこり、悪徳と不義と傲慢(ごうまん)から来る数多の憎しみに充ち満ちる。ヒトは元々は同一のモノでありながら富めるモノと持たざるモノに更に分離し、相争い、幸福の在処を見失っていった。
物理的、生活的には何一つ不自由のない状態であるにもかかわらず、富めるモノの心の中に獏として広がっていく飢餓(きが)感。《楽園》の時代には当たり前に感じていた幸福も、多元的な自然の意味を見失った今では、人類の産み出した枠組みの中で探し求め、追い求めなければ得ることは出来ない。だがその一元的な幸福は、人類の飽くなき欲求の向こうにこそ存在する。
こうして、科学文明という、知恵の実を食べた人類が産み出した強力な武器は、瞬く間に地上を席捲(せっけん)し、奪い、壊し、全てを己が原理で塗り固め、世にも不自由で生き難い《地獄》を、この地球に出現させていた。
しかしながら、そのような時代に於(お)いても、太古の智慧(ちえ)を――七人の偉大な呪術師たちの伝えてきた偉大なる御教えを――受け継いだ者は少数ながらも確実に存在した。
彼らは世界中に点在し、インターネットをも凌(しの)ぐ壮大なネットワークを互いに結び、今もなお、闇に潜み、人知れずこの世界の運行を司る。数百万の世代を経て、その血も、受け継いだ御業も、その偉大な御教えさえも、何もかもが朧に儚くなりながらも、彼らは地獄と化したこの地球を確実に支え続けていた。
何億年にも及ぶ人類の栄華の歴史の中で、陰となり日向となり、その異能の能力を振るい続ける末裔(まつえい)たち。その異質さは神話や伝承として、また時には怪談やオカルトとして、人類の歴史に語り継がれていく。
そして――
この物語の舞台――永い永い時を経て、科学文明も爛熟(らんじゅく)期を迎えた二十一世紀、現実の裏に潜む彼らの存在は、人々からいつしかこう呼ばれるようになっていた。
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【贄神】プロローグ [贄神]
予告通り、本日より『贄神』のWeb連載を開始します。なるべく見やすく区切っていきたいとは思いますが、ルビ等読みにくい状態なのはご容赦ください。
今回は、2007年冬コミで発行しました序章から、世界観を示すプロローグを一挙公開です。
『贄神』概要
この地球を襲う恐るべき環境変化の只中にある、2050年の世界を舞台とした近未来SFちっくファンタジー(?)。《贄神》となる運命を背負った一人の青年が、人類が地球環境に引き起こした未曾有の危機に翻弄される
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彼らは天を轟かせ地を動かし、風を、雨を、火を操り、世界に恵みと死の循環を――破壊と再生のサイクルをもたらしていた。開闢(かいびゃく)の世、神より与えられし偉大なる御教えに従い、混沌に満ちた世界に均衡と調和を産み出していた。
そこでは、人々は世界や自然の一部として、質素に、心安らかな日常を送っていた。
世界を構成する要素は全て一であると同時に全。全ては混沌に連なるモノとして多元的な意味を持ち、総体を為して一つの調和を形作る。どれ一つ欠けても正しい和音を奏(かな)でることができなくなる、危ういバランスの上に成り立つ世界。だが、多元的な曖昧さを秘めたまま全てがあるがままに存在し、全ての営みをあるがままに受け容れることで、それは永遠に続く楽園になる。
そう、人も、始祖の男女(アダムとイヴ)が愚かにも己の本分を忘れ、禁断の木の実を口にしてしまうまで、自然を構成する要素の一つとして、七人の偉大なる呪術師の導きの下、調和に満ちた世界を産み出し続けていた。
それから数億年――。
人の世界でははや数百万世代が経過し、科学と文明の発達が、古来より在った自然と共に生きる智慧(ちえ)を忘れさせていく。この世の成り立ちは素粒子にまで分解された物理法則に取って代わられ、自然の営みは無骨な数式に成り代わる。そこでは神の驚くべき御業も自然に宿る生命の神秘も、闇に潜み人を脅かす恐怖も超常的な現象さえも、全てが人間の飽くなき欲求によって解釈され、解明され、一元的な意味の中に押し込められ、科学と文明の名の下にその存在の多元性を喪おうとしていた。
既に、人の世では永遠の調和も、七人の呪術師たちが神から受け継ぎ伝えてきた偉大なる御教えも、何もかもが喪われて久しい。それ故、地上には反調和がはびこり、悪徳と不義と傲慢(ごうまん)から来る数多の憎しみに充ち満ちる。ヒトは元々は同一のモノでありながら富めるモノと持たざるモノに更に分離し、相争い、幸福の在処を見失っていった。
物理的、生活的には何一つ不自由のない状態であるにもかかわらず、富めるモノの心の中に獏として広がっていく飢餓(きが)感。《楽園》の時代には当たり前に感じていた幸福も、多元的な自然の意味を見失った今では、人類の産み出した枠組みの中で探し求め、追い求めなければ得ることは出来ない。だがその一元的な幸福は、人類の飽くなき欲求の向こうにこそ存在する。
こうして、科学文明という、知恵の実を食べた人類が産み出した強力な武器は、瞬く間に地上を席捲(せっけん)し、奪い、壊し、全てを己が原理で塗り固め、世にも不自由で生き難い《地獄》を、この地球に出現させていた。
しかしながら、そのような時代に於(お)いても、太古の智慧(ちえ)を――七人の偉大な呪術師たちの伝えてきた偉大なる御教えを――受け継いだ者は少数ながらも確実に存在した。
彼らは世界中に点在し、インターネットをも凌(しの)ぐ壮大なネットワークを互いに結び、今もなお、闇に潜み、人知れずこの世界の運行を司る。数百万の世代を経て、その血も、受け継いだ御業も、その偉大な御教えさえも、何もかもが朧に儚くなりながらも、彼らは地獄と化したこの地球を確実に支え続けていた。
何億年にも及ぶ人類の栄華の歴史の中で、陰となり日向となり、その異能の能力を振るい続ける末裔(まつえい)たち。その異質さは神話や伝承として、また時には怪談やオカルトとして、人類の歴史に語り継がれていく。
そして――
この物語の舞台――永い永い時を経て、科学文明も爛熟(らんじゅく)期を迎えた二十一世紀、現実の裏に潜む彼らの存在は、人々からいつしかこう呼ばれるようになっていた。
贄神(にえがみ)――と。
これは、この蝕まれた地球を救うため、望まぬながらも贄神としての運命に巻き込まれていくことになった、一人の青年の物語である。
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タグ:創作小説
2008-01-03 20:32
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